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Skyrim SE Novel style diary

「The Elder Scrolls V: Skyrim Special Edition」のプレイ日記です。日々のプレイを記録するだけでなく、小説風のテキストに仕上げています。

【SkyrimSE:day1】斬首台とドラゴンと、少し手の込んだ朝食を作ることの効用

 日記を付けよう。そう決めたのは、3度目の朝だった。もう3度同じ夢を見ている。


 最初は、寝る前に見たテレビドラマが影響しているのだと、大して気にしなかった。日本ではないどこかの国。剣と、火薬の代わりに魔法が発展したような世界。その世界で、何人もの王を名乗る男たちが、覇権争いをするドラマだ。数年前からとても人気がある海外ドラマで、わたしも会社の同僚から勧められて、DVDでまとめて見ていた。その日も次の日が会社だというのに、1度見始めると止まらなくなって、ベッドに入ったのは日付をまたいだ時間だった。

だから、あんな夢を見てしまったのだろう。1度目の時は、目が覚めた瞬間から、その内容をほとんど忘れてしまっていたから、妙にリアルな夢だったな、くらいにしか思っていなかった。

次の日の晩は、残業で帰りが遅かったので、ドラマを見ないでさっさと寝た。けど、また同じ夢を見た。

どこか知らない国と時代の、荷馬車の荷台に乗せられて、どこかに連れられていた。わたし以外に3人の男。2人は青い色の衣服。それをなんと呼べばいいかわからないが、その青い色を染色する技術は、この時代にとって特別なものではないか。つまりテレビドラマの世界と同じで、現代、ではない。彼らがまとっているのがただの布切れではなく、人が加工したものだと認識させる文明の証のように思えたが、その文明のレベルも同時に示していた。

2人のうち1人はよく喋り、時折出てくる「ノルド」という言葉がどこかの民族の名前であるように推察できた。ノルド。聞き覚えはない。それが架空の世界の民族なのか、現実の世界に実在する民族なのか、わたしにはわからない。

もう1人の青い色の男は対象的だった。猿ぐつわをされて、時折うめき声を上げるだけだ。

残る1人は肌が浅黒く、ずっと喋り続ける青い男に絡まれて、終始疎ましそうに返事をしている。色素の薄いコーカソイド風の青い服の男たちとは、同人種ではあるようだ。しかし青い服は着ていない。そして比較的落ち着いている青い二人と比べて、目が泳ぎ、肝が座っていない。だが彼の様子から、この荷馬車は、わたし達をあまり楽しい場所へ運んでいるのではないとわかる。話の内容はよく覚えていない。

覚えているのは、荷台の乗せられた4人の中で、女はわたしだけだった、ということだ。


 2度目の夢を見た後の朝。はっきりした夢を見るのは、眠りが浅い証拠だ、という同僚の話を思い出す。目が覚めた瞬間から、意識ははっきりしていて、たった今見た夢の光景をありありと思い出すことができた。しかし思い出すことができたとしても、全く幸せな気持ちになれる夢ではなかったから、ドラマを見るのは休みの日までおあずけにしたほうがいいな、と思っただけだった。ドラマを見ていない夜でも、こんなにはっきりとその影響を受けた夢を見るなんて。日々の仕事の忙しさで、大分体も精神もまいっているのかもしれない。

時計を見ると、ぐずぐずしている暇はなかった。すぐに身支度を整えて出社せねばならない。

 会社が終わって帰宅する頃には、2日間に渡って同じ夢を見たことなどすっかり忘れていた。シャワーを浴びて、芋焼酎のロックを一口含んだところで、そうだ、今晩はドラマのDVDはおあずけにするんだった、と思い出した。体は疲れていたけど、まだ眠れそうにはなかったので、ドラマを見る代わりに、明日の朝食の準備をすることにした。今朝は忙しくて食べている暇がなかったから、明日は少し手の込んだ朝食にしよう。そう思って、炊飯器に米をセットして、浅漬を作った。味噌汁をどうするか悩んだが、こちらも作っておくことにした。できたてを啜ることができないのは残念だけど、また寝坊して、味噌汁まで作る時間を取れなくなるのは致命的だ。炊きたての白いご飯に味噌汁がないのは許されざる冒涜だ。味噌汁まで作っておけば、あとは適当な魚を焼けばいい。たしか、さんまのみりん干しがあったはずだ。

 食事を作る行為は、バランスの良い栄養を体に取り込むだけでなく、心の平衡感覚も取り戻してくれる。毎日髭を剃ることは、身だしなみを整えるだけではなく、気持ちにリズムを作ることにも繋がるとあの人も話していたが、わたしにとっては真っ当な食事を作ることがそれに当たるのだろう。一人暮らし用の狭い部屋に、ささやかに設けられたキッチンカウンターに、食器をきれいに並べ終わる頃には、芋焼酎のグラスも空になり、仕事モードで興奮していた神経も落ち着いていた。寝る前に、スマートフォンに溜まっているポッドキャストを消化しようかと思ったが、寝る前に脳を刺激して、また妙な夢を見てはたまらない。朝目が覚めるまで、どこかのラジオ局の防音ブースで永遠とひとり語りをするはめになっても困る。

わたしは歯を磨いて寝室に移り、照明をわずかな明かりだけを残すようにリモコンで調光し、それも60分で切れるようタイマーをかけて布団に入った。目を瞑り、あの人のことを考える。今日もたくさん話ができた。いつか仕事以外の話をする日が訪れて欲しいけど、今はこのままでいい。あの人は重要な決断をする前に、今では必ずわたしに相談してくれるし、わたしもあの人の助けなしに日々の業務はこなせない。それで十分だ。

温かい。今日をあの人と一緒にやりきれたこと。そして明日もまたあの人に会えること。決して寂しくはない。あの人に出会える朝ならば、明日が疲れが1番溜まる木曜日であっても、それは希望の朝だ。入念に準備した、まっとうな朝食を食べて、できれば1本早い空いている電車に乗ろう。あの人に抱きしめてもらう妄想をしながら、暗闇の世界に心を溶け込ませていった。

 


しかし、暗闇の先で、わたしはまた荷馬車に乗せられていた。3人の男と共に。

 

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 斬首台とドラゴンと、少し手の込んだ朝食を作ることの効用。これがわたしの、永遠に続くかと思われた異界での旅路の、最初の日だった。